パナマ人のケンカ
LA LEY DE LA VENGANZA PANAMEÑA
一般に途上国では家族の絆が強いと言われます。 ラテン・アメリカでは、夫婦の関係はけっこうもろい面が見られますが、子供に対する愛情はびっくりすることがあります。 結果として親子の絆も先進国では考えられない関係が見られます。
- 喧嘩には家族総動員するパナマ人 (伊藤玄一郎 / 99.5.14)
私の職場でおこったこと。 私の職場はパナマ運河のパイロットや、世界一の登録数を誇る船舶に必要な人材である航海士や機関士を養成する大学レベルの航海学校である。
校長の秘書をしているのは"ドーニャ・フィデ"と呼ばれる45歳位の黒人系オバタリアン、身長は165cm位の中位だが、自分なりの主義と方針に頑固な性格のため職場での同僚たちとの折り合いはいろいろである。夫とは浮気が原因で離婚しているが、もうサラリーマンをしているプロレスラーみたいなでかい息子がいる。
ある日、学生や先生たちにコピーサービスやテキストのプリントなどを担当している印刷部の、"ボンチョン"(Von Chong)という名のラテン的30歳位の男性ホモの同僚職員が、いつもの通り音楽を聴こうとして、印刷部にあったはずのラジカセが無くなっていることに気付き、学校中を探し歩いていたところドーニャ・フィデの校長秘書室で見つけた。
しかしドーニャ・フィデは「このラジカセは学校のもので、校長が私に預けていったんだからね、それにあんたが個人的に使う権利はないんだから」と言ったそうだが、職場ではコピーマンだが、週末になるとジョン・トラボルタごときの踊りの帝王で、音楽には特別な入れこみがあるボンチョンは、いきなりラジカセに手を伸ばした。 ドーニャ・フィデは渡すまいとラジカセの前に立ちはだかったところ、ボンチョンは彼女を遠慮なくぶん殴ってしまった。(註:パナマ人の男性はたとえ女性にビンタを張られるようなことが合っても女性には絶対に手をださない。しかしオカマは女性と殴り合いをするらしい)
しかしそれでも彼女はラジカセをを渡そうとしないのでボンチョンとの乱闘になり、近くにいた先生たちが二人を引き離してその日の騒ぎは一応治まった。 その時、みんなが「ドーニャ・フィデには息子がいるぞ、大変だ」「ボンチョンにはおふくろがいるぞ」という話をしていたが私は職場の同僚同士の喧嘩に息子や親は関係ないだろう、それにふたりとも大人なんだし...と思っていた。
ところが次の日の朝、ドーニャ・フィデが私のオフィスに来て私の秘書や運転手に話しているところを聞いていると、なんとボンチョンのおふくろから彼女のところへ、おどしの電話がかかってきたというのである。 殴られて腫れた目をしているのは彼女のほうなのにあのボンチョンは大人のくせしてとんでもないマザコン坊主だったんだなと思っていたところ、こんどは下の階の事務所で騒ぎが聞こえる。
いってみるとボンチョンが今度は目の周りにあざを作って電話で警察を呼んでいるのである。 今度はドーニャ・フィデに殴られたかと思っていると、プロレスラーみたいなドーニャ・フィデの息子が学校にやってきてボンチョンの部屋に入り、飛び掛かってなぐったというのである。(かたきうち番組か?)その後は警察がやってきて事情聴取をし、こんどは海運庁の長官がやってきて校長と、喧嘩をした二人の処理についての緊急会議をしていた。
昨日から今日にかけて学校の職員の間では仕事どころではなく、「臨場型スペクタクラルドラマ「ボンチョン親子 VS ドーニャ・フィデ親子の決闘」を見守って2日間が飛んでしまった。
職場のパナマ人たちの話によるとこの国では、ドーニャ・フィデの息子がしたことは当たり前のことで、親が殴られて息子は黙っているわけにはいかないという常識があるそうだ。 特に一家の親父が殴られたりしたら、奥さんや子供たち総出での仇うちになり、そうすると相手のほうも一族総出で対応し、大変な喧嘩になるというのである。 殴られたボンチョンをおふくろとアミーゴ(愛人とうわさされている人物)が車で迎えに来た。 うちの秘書はもし警察がドーニャ・フィデの息子を逮捕しなかったら、今度はホモ連盟が敵討にくるかも知れないといっているが、どこまで実際に現実的なのかわからない。
このパナマ人の家族総出の「かたきうち」伝統についてはなにかのフィエスタで聞いたことがあったのだが、冗談半分にしか受け取っていなかった。 今回の職場の大騒ぎでパナマ人の家族の結束について知ることができた。 実は私は、今まで仕事でパナマ人と喧嘩腰で仕事をしてきた。 そして口でいっても判らなかったら............という考えが心のすみにいつもあった。 しかし、もしだれかをなぐっていたらその家族総出の「仇打ち」を受けてたたなくてはならないところだった。 だれも殴らなくてよかった。
写真:親子の絆が強い黒人系パナマ人(この写真は、事件とは関係ありません。)
作者の職場:パナマ航海学校
<パナマより愛を込めて> <作者について>
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